Updated Date: 2019-08-20 16:06:14

放射線被曝に対処するために

聖徳大学短期大学部総合文化学科 教授 原田 義也

著者プロフィール
1957年東京大学理学部化学科卒業。東京大学、千葉大学を経て、現職。専門は、量子化学、固体表面物性。「Theoretical Models of Chemical Bonding, (1991)」(Springer)、「量子化学 上・下(2007)」(裳華房)などの著書、「Surface Spectroscopy with High Spatial Resolution Using Metastable Atoms, Nature, 372, 657-659 (1994)」、「Electron Spectroscopy Using Metastable Atoms as Probes for Solid Surfaces, Chem. Rev. 97, 1897-1952 (1997).」などの論文あり。

東日本大震災から2ヶ月以上経過したが、依然として政府・東電の情報隠蔽体質が問われている。このような情報隠蔽が生む不安を解消するためには、われわれが生活している環境や摂取する食物の放射線のモニタリングデータを基にして、実際に人体が受ける放射線量を見積もる必要がある。これは「直ちには被害がない」、「X線検診1回分」、「想定外(想定できなかった愚かさのこと)」などの発言に惑わされないためにも役立つと思われる。以下、放射能に関する知識がない人にも理解できるように、既存の知識を整理した。

1. 放射線の危険性

不安定な原子核が崩壊するとき、エネルギーの強い放射線が放出され、人体の細胞核の中にある遺伝子(DNA)を攻撃して壊す。放射線を大量に浴びると細胞の修復能力が追いつかず、ガンの原因となる。特に細胞分裂が盛んな子供に害がある。

2. 放射能で使われる単位: ベクレルとシーベルト

1秒間に1個原子核が崩壊するとき、1ベクレルといい、1 Bqと記す。これに対し、シーベルトは人体への被曝の大きさ(実効線量)を表す単位である。シーベルト、ミリシーベルト、マイクロシーベルトをそれぞれSv, mSv, µSvと記す。1 mSv = 0.001 Sv, 1 µSv = 0.001 mSvである。

3. 放射線被曝の例

実効線量/mSv
胸部X線撮影 0.1-0.3
ジェット機による東京-ニューヨーク間往復(宇宙線による) 0.2
1年間被曝しても害がない人工放射線の限度(国際放射線防護委員会の勧告) 1.0
自然界にもともとある放射線による1年間の被曝 (日本平均) 1.5
自然界にもともとある放射線による1年間の被曝 (世界平均) 2.4
屋内待避の指針 (日本原子力委員会) 10
避難の指針(日本) 20
人に影響があると証明されている放射線量の最低値1)。この値を越えるとガンになる確率が 0.5 %上昇 100
福島原子力発電所での作業従事者の被曝上限値 250
1度に被曝した場合のリンパ球の減少 500
1度に被曝した場合の急性放射線障害(悪心、嘔吐、水晶体混濁など) 1000
1度に被曝した場合、5 %の人が死亡 2000
1度に被曝した場合、50 %の人が死亡 3000-5000

1) この値以下でも、証明はされていないが、影響があることが指摘されている。

4. 外部被曝と内部被曝

放射線の被曝には環境による外部被曝と食物摂取や吸引による内部被曝がある。上表から1年間に受ける自然放射線の平均値(日本)が1.5 mSv、1年間に被曝しても害がない人工放射線の限度が1.0 mSvであるから、それらの和は2.5 mSvである。したがって、内部被曝と外部被曝を合計して1年間に2.5 mSvを越えなければ一応安全と考えられる。

5. 外部被曝の算定

  • 自分が住んでいる場所の放射線のモニタリングデータを見る。これは文部科学省のホームページ(http://www.mext.go.jp/)に出ている。数値は1時間当たりのµSb値で示されている。なお、(a) 都道府県別放射線モニタリングと(b) 全国大学等の協力による空間放射線の数値がある。(a) は地表 10 m程度で測られている場合が多いので、(b)の値 (地表に近い値)より一般に低い。算定には(b)の値を使った方がよい。
  • 24×365倍して1年間 (24時間×365日)の数値を計算する(1年間線量がほぼ一定と仮定した場合)。

計算例

  1. 東京都文京区 5月29日 1時間当たり0.08 µSv ((b)の値)
    1年間で0.08×24×365 = 700 (µSv) = 0.7 (mSv)

    なお、(a)の値は 東京都新宿区 5月29日 1時間当たり0.062 µSvである。

  2. 福島県双葉郡浪江町 5月30日10:21 1時間当たり13.9 µSv (モニタリングカーによる地表の値)
    1年間で13.9×24×365 = 12200 (µSv) = 12.2 (mSv)

    福島原発から30 km圏外にもかかわらず、安全値の2.5 mSvを大幅に越えている。

  3. 最近発表された文部科学省の校庭における基準値 1時間当たり3.8 µSvは、生徒が210日登校して一日5時間学校にいるとすると、
    年間で3.8×5×210 = 4.0 (mSv)

    に達するので、基準値が甘すぎると言わざるを得ない。

6. 内部被曝の算定

原発事故によりいろいろな原子核種が拡散しているが、主なものは次の通りである。

核種 半減期 実効半減期 実効線量係数
(µSv/Bq)
主に影響する
器官
ヨウ素131 8.04日 7.5日 0.022 甲状腺
セシウム137 30.0年 109日 0.013 筋肉
ストロンチウム90 29.1年 18年 0.028
プルトニウム239 2.41万年 50年 0.25

上表で実効半減期とは体内で核種の量が半分になる時間である。通常食品中の放射線量は食品1 kg当たりのBq値で示される。体内における影響は核種により異なる。被曝による影響をSv単位で算出するには、核種ごとに実効線量係数をかける。なお、農畜産物中の放射線量のデータは農水省のウェブページ(http://www.maff.go.jp/)に出ている。

計算例

ヨウ素131を1L(約1 kg)中に300 Bq含む牛乳を2L飲んだ場合。
300×0.022×2 = 13.2 (µSv) =0.0132 (mSv)

注意

  1. 子供の場合は内部被曝の影響が大きい。ヨウ素131とセシウム137の場合、年齢によって実効線量係数の値は次のように変わる。
年齢 ヨウ素131
実効線量係数(µSv/Bq)
セシウム137
実効線量係数(µSv/Bq)
0-1 0.18 0.021
1-2 0.18 0.012
2-7 0.10 0.0096
7-12 0.052 0.010
12-17 0.034 0.013
17以上 0.022 0.013
  1. Bq値のデータは、野菜などでは洗ったもの、魚については、頭、内臓、骨を除いたものが示されている。

  2. ヨウ素131の甲状腺ガンに対する緊急時の安全基準は50 mSvである。セシウム137は水に溶けて排出されやすく比較的毒性が低いといわれる。ストロンチウム90とプルトニウム239は骨に集まり長期間影響を与える。しかも、コストと時間がかかるので、通常検査項目に入っていないのが問題である。

  3. 海洋汚染ではプランクトン→小型の魚→大型の魚による食物連鎖で放射性物質が濃縮される。セシウムの場合、魚には海水の30~100倍濃縮される。

7. まとめ

5と6の外部被曝と内部被曝の合計によって、年間のmSv数を計算し、その値が2.5 mSv以下ならば、一応健康に影響ないと考えてよい。食品は規制されているが、放射能測定のサンプル数が少ないので、内部被曝については注意が必要である。内部被曝を考慮しない場合、食物摂取による自然放射線量は年間0.3 mSv程度といわれているので、外部被曝の年間の値が2.2 mSv以下ならば一応安全であろう。なお、年間2.2 mSvは1時間当たり0.25 µSvであるから、環境のモニタリングデータがこの値を越える日が多い場合や人工放射能に基づく食品による内部被曝の可能性があるときは注意が必要である。

Editor: 伊東 勝利
Updated Date: 2012-02-28 15:14:57