Updated Date: 2017-05-20 06:43:39

災害時の寝袋

聖徳大学短期大学部総合文化学科 教授 加藤 康夫

著者プロフィール
最終学歴 1964/3 東京工業大学理学部化学科卒業
1989/3 岡山大学大学院自然科学研究科後期課程修了
工学博士
専門領域 高分子合成、高分子材料学
キャリア 1964/4 東洋紡績株式会社入社
1994/4 社団法人繊維学会事務局長を経て、聖徳大学短期大学部教授
著作/論文 「重合過程を利用したポリ(p-オキシベンゾイル)結晶の形態制御に関する研究」(博士論文)
「ポリ(p-オキシベンゾイル)ウィスカーの調整」高分子論文集44(1)p35~ (共著) その他

私が約50年程前に使用していた寝袋は、米軍の中古品であった。中綿は羽毛で、当時としては超高級品であったと思う。冬の夜でも暖かであったが、クッション性が悪く寝心地はあまり良くなかった。これは当然である。寝袋は携帯用の寝具で、要求される性能は、暖かさは当然であるがそれに加えて軽さと小さく畳めることである。若いときは寝心地などは殆ど気にしなかったが、今、寝袋で暫くの間生活ができるか考えると、些か躊躇するものがある。

寒さを感じるのは、体温で暖められた熱が衣服や寝具を通して、所謂、伝導により外気に放出されるためである。これを防ぐために断熱材(保温材)を使用する。物質の断熱性(熱 伝導のしにくさ)は熱伝導率(または度)で示される。数字が小さい物が断熱性に優れた物質である。最も小さいのは真空であるが、これは衣服や寝具には利用し難い。従って、次に小さい空気を利用することになる。具体的には、動かない空気を多量に含有する物質は、優れた断熱性能を持つ。例えば、クール宅配便に用いられている発泡スチロールがそれである。

羽毛はその繊細で複雑な立体構造により空気を沢山含むことができる。それを、目の詰まった布で包む(羽毛中の空気を外に出さないため)と優れた断熱材になる。暖かいセーターに使用されるウールは、動物が冬の寒さから身体を守るために晩秋頃刺毛の間に生やす細くて縮れの多い(空気を沢山含有する)綿毛である。春になり暖かくなると自然に抜け落ちる(但し、羊は抜けない)。最近では、マカロニーのように中心部に孔が開いた中空糸といわれる合成繊維や、身体から蒸発する水分を吸着して発熱する発熱繊維のように軽くて暖かい優れた合成繊維が開発され、羽毛などの代わりに使用されている。

私は、寝袋を持っていなかった高校生の頃、暖房具として毛布を1枚持ち雪の残る春山に登ったことがある。夜は馴染みの炭焼き小屋に入って寝たのであるが、寒くて一晩殆ど眠れなかった思い出を持つ。東日本大震災で避難した人たち、特に高齢者の人たちにとって、最初の頃の板敷きの床の上で毛布だけで過ごした寒い夜はさぞかし辛いものであったであろうと、心が痛くなる。

寝袋は非常時(またはアウトドア活動)用の寝具であり、前述したように寝心地は良くない。更に、袋の中で寝るのであるからどうしても閉塞感がある。決して安眠できる寝具ではなく、長期に渡る避難生活には向かないと思う。長期の避難生活を余儀なくされる高齢者が体調を崩さないためには良質の睡眠が必要である。この点から、災害用の寝具として、高齢者用には毛布ではなく簡単なクッションと布団を常備すればより健康的に避難生活が遅れるであろうと思う。勿論、保管場所や費用、更に時折の手入れのための人手など自治体の負担が大きくなるが。今回の災害の教訓として一度皆で考えたらどうかと思う。

Editor: 山下 伸夫
Updated Date: 2011-06-28 21:02:54