Updated Date: 2019-01-17 10:04:37

震災と日本人

聖徳大学短期大学部総合文化学科 教授 飯島 とみ子

著者プロフィール
兵庫教育大学(大学院)卒業
オーストラリア大使館商務部、(株)虫プロダクション秘書、東京都立中学、高校教員を経て現職
専門分野: アメリカ文学(マーク・トウェイン、女性作家等)英米児童文学
著書: 『昔、カリブの島で』(翻訳)『英語授業実例事典』(共著)『イギリス教育社会史』(翻訳、共著)等 論文: A Study of A Connecticut Yankee in King Arthur's Court

著名な日本文学研究者でコロンビア大学名誉教授のドナルド・キーン氏が88歳にして日本国籍を取得して、余生を日本人として過ごすことにしたということが大きな話題となった。日本に興味を持って長年研究を続けてきた氏が永住を決めた理由のひとつが「一番住みやすい所は日本」ということであったが、今回の地震に際して「テレビでものすごい津波の映像を見て、日本の国籍を取ろうという気持ちが固まった」と言う。

なぜ彼がそれほどまでに日本に引かれるのか、強く私の印象に残った彼の言葉がある。「東京大空襲の時に、疎開しようと多くの人が上野駅に詰めかけた.疲労と恐怖のただなかにあって、日本人は整然と我慢強く順番を待っていた。それは大きな驚きであると同時に尊敬の念を禁じ得なかった」というのである。今回の地震と津波で被害にあった日本人の整然とした秩序正しさ、我慢強さ、落ち着きに改めて感動したという。今回の地震の報道を見た米国人は日本人の落ち着きぶりに驚き、大地震の話題の中で日本(日本人)の悪口を聞いたことがないと言う。

アメリカは2005年に、ジャズの本場ニューオーリンズが巨大ハリケーン・カトリーナによる大洪水に見舞われた。その時には盗みや暴動など秩序が大変乱れたことが世界中に報告された。5年以上経った今でも、未だ完全復興にはほど遠い状態であるという。これは、アメリカが多民族から成り立っている国であるということが大きな理由のひとつであると思われる。復興に際して人種問題が大きなネックになっていると言われている。さらに、個を大切にするアメリカ社会の負の側面や自由競争の経済に起因する貧困層の問題が要因となった。

一方、長年にわたって単一民族からなっている日本は民族固有の長所を育んできた。キーン氏が「日本にいると一番落ち着く」という元にあるのは「礼儀」という。

アメリカナイズが急速に進んだ近年、私たちはともするとそうした変化に翻弄されて、本来日本人が持っていた思いやりや礼儀といったものを置き去りにして来たのではないだろうか。世界の中で遅れをとるまいと躍起になり、弱点を見つけては自己批判しがちであったような気がする。競争意識に振り回されて己の利益ばかりを追いかけ、互いを思いやり弱者に目を向けるといった地域共同体としての日本古来の姿を忘れてしまったように思われる。

今回の大災害は我々日本人が持っている長所を明らかにし、その価値を見直させてくれた。忍耐強く、助け合い粛々と困難に立ち向かうという私たちが本来身につけている長所を今後も決して忘れることなく、東日本を日本を再生していこうではないか。

Editor: 山下 伸夫
Updated Date: 2011-09-15 15:10:02