Updated Date: 2017-07-24 11:13:47

震災復興とアパレル業界

聖徳大学短期大学部総合文化学科 教授 杉本幸子

著者プロフィール
杉野学園ドレスメーカー学院卒業 杉野学園教授を経て現職
日本ファッション教育振興協会 検定中央委員
被服学テキスト「Science of clothing」「PATTERN & SEWING No1~No6」
教科書「PATTERN CUTTING No1 Foundation No2 Designing」共著
パターンメーキング技術検定試験 3級、2級ガイドブック,同技術検定試験問題解説集 共著 他

東日本大震災の3月11日は首都圏も大きな揺れに見舞われ、交通が麻痺、帰宅出来ない状態のまま、その後に続いた余震に、寝られない夜を過しました。しかしまもなく知った東北地方の被災の惨状には全く言葉を失い、多くの大切な命が奪われていく有様に、悼む心はどうにも癒しようがありませんでした。

東日本大震災は製造業王国東北の産業を壊滅させ、その影響は日本国内だけでなく、遠く世界の各産業にも波及しました。勿論ファッション産業も大きな打撃を受けました。東北に数多くある製造工場をはじめ、百貨店、ファッションビル、専門店が立ち上れないほどの被害を受けたのです。東北には日本を代表するアパレル縫製産地があり、中でも福島県の相馬市と南相馬市は縫製業の一大集合地です。地震と津波の被害の上に、東京電力福島第一原子力発電所の事故も重なって、大きな影響を受けています。災害は風評被害という形でも表れます。放射能に対する無知、無理解から生れるとはいえ、この風評を払拭することは、実際には容易ではありません。アパレルメーカーが発注を継続する支援の動きが広がる一方で、国内外の厳しい風評被害が現実のものとなっています。それでも原発30キロ圏からは離れている相馬市内の縫製工場の多くは、改めて地域特性を生かした体制の構築に動き始め、3月の末には業務を再開した工場も多く、技能実習生が帰国した中、日本人中心で本格操業に入っています。実習生がいなくても充分対応してゆけるという工場もあり、風評に負けない!これをのり越えると力を込める工場もあります。しかし、福島県内だけでなく、東北地方の多くの企業が風評により、国内外からの発注をキャンセルされるという事実もあるのです。こうした逆風の中、経済産業省による「ものづくり事業者等海外販路開拓支援事業」と銘打ち6月7日~9日の3日間、パリの中心部で山形のメーカー3社が合同展を開きました。この3社はもともと欧州の展示会に出展し、輸出実績のある会社ですが、更に品質の良さを改めて示し、市場開拓に挑んだのです。「日本の製品は大丈夫という発信をしたい」という事でドイツ製の放射線測定器を持ち込み製品には安全証明書もつけた結果、確実にマーケット開拓の糸口をつかんで帰国しています。この展示会には、ニナ・リッチ、シャネル、ルイ・ヴィトンなどのフランス高級メゾンの担当者も訪れたということです。

さて、今もなおライフラインが復旧していない石巻市でも「ファッションをもう一度売ろう」「店を開けて街に刺激を与えたい」と立ち上った小売店舗があります。津波被害の大きかった駅前商店街には、数える程ながら、店舗が営業を再開し始め、街灯の消えた街にほのかな希望の光を映し出しています。ファッションが果たして売れるのかと心配していた小売店舗の代表も、きちんと必要なものを揃えていく姿勢の中で、実際は予想を越える手応えであったといいます。唯普段はあまり動きのない黒の上下が、お葬式に合せてか毎日のように売れるのが日々の営業に悲しみを添えているそうです。

仙台市内でも商業施設や、百貨店が5月の連休前に一部を除いて続々営業を再開しました。震災で落ち込んだ観光客を呼ぶためにもと、七夕祭りの開催をいち早くきめたのです。亡くなった人達を弔う意味を込めた七夕祭りは、例年通り8月6日~8日に催されます。仙台駅周辺は、ミュージアム&パーク、新商業施設も開業、仙台コレクションも仙台駅2階コンコースで9月にファッションショーを開きます。復旧から復興へ 東北の各市は確実に、力強く歩みを進めています。

おわりに震災遺児を支援する「桃・柿育英会」が設立された事に触れましょう。ユニクロ社長の柳井正氏が発起人になり、安藤忠雄氏、小柴昌俊氏、福島賢一氏らが名を連ねています。基金に賛同した人から1口1万円で10年間寄付してもらい、被災地の岩手、宮城、福島各県の教育委員会を通じ、遺児や孤児に高校卒業迄給付されるというものです。ユニクロではTシャツなど1枚につき100円を被災地に寄付するプロジェクトを展開し、約2億円の義援金を集め、これを桃・柿育英会の基金にあてるとしています。これ以外にも、不況といわれるアパレル業界ですが、復興支援の義援金をいろいろな型で捻出し、寄贈している企業が数多くある事を忘れる事は出来ません。こうしたアパレル業界の動きは、単にこの業界のみならず、いち早い救済と復興を願う日本中の人々の祈りを籠めた贈物として被災地に届けられる事でしょう。

人々の気持ちをポジティブにするファッション!夢と希望を見出すファッション!ファッション産業の流れは決して止まる事はないのです。

Editor: 山下 伸夫
Updated Date: 2011-07-08 12:51:47